大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和26年(ネ)84号 判決

原判決中被控訴人等三十七名(原判決第一原告)に関する部分を取消し、これを旭川地方裁判所に差戻す。

本件附帶控訴を却下する。

二、事  実

控訴(附帶被控訴)代理人は、原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決、竝びに附帶控訴棄却の判決を求め、被控訴(附帶控訴)代理人は、控訴棄却の判決、竝びに附帶控訴の趣旨として、原判決の一部を左のとおり変更する。原判決中当事者の表示及び主文第一項の第一原告目録記載の原告の住所氏名に「苫前郡苫前町字上平一四二番地原告田中万九郎」を加えるとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、

控訴代理人において、(一)控訴人は昭和十三年十二月二十日訴外亡尾作長次郎より本件土地を買受けたものであつて、同訴外人は昭和八年頃より右土地に時局匡救臨時農業土木事業として政府の補助を受け排水溝を堀鑿し採草地として使用していたものであつて、控訴人は買受後すなわち昭和十四年以降は右土地に牛馬を放牧するとともに自ら採草し年間採草量は約一万貫であつて、これを自ら飼育する牛馬の飼料にあてるとともに残量は苫前町字磯島鈴木竹三郎外十数名の農家に販売していたものであり、昭和二十二年の控訴人の牛馬飼育数は馬三頭牛十七頭緬羊三頭であつて、昭和二十一年、昭和二十年の飼育頭数はこれより多かつたものであり、本件土地は売買契約当時農地調整法第四条に定める採草地、放牧地に該当したものである。(二)しかるに本件土地を被控訴人等に売渡したのは訴外吉田チヨが昭和二十二年頃進駐軍軍政部に、本件土地を開放せしめよ、と投書したことに端を発し、道農地部西川小作主事等の調査するところとなつたが、被控訴人等はこれに乗じ苫前町農地委員会に本件土地の買收竝びにこれを被控訴人等に売渡すことを迫り、同農地委員会は法規上右方途がなかつたところから本件売買の日時である昭和二十三年二月頃被控訴人等と意思を通じ控訴人を委員会に呼出し、小山孝次、村本常美、福田一男各委員が主となり、買收の法定根拠なきに拘らず一反歩三百円で被控訴人等に売渡さなければ本件土地をこれよりも低廉な価格で買收する旨申向けて詐欺を行い、且つ右売買に応じなければ買收し財産上前記の如き不利益を蒙らしむべき旨告げて控訴人を強迫し、控訴人は右詐欺及び強迫により本件売買契約をなしたのであるから、合意解約が認められず又農地調整法第四条に違反する無効の契約でないとしても本訴において右売買契約の取消の意思表示をなすものである。と述べ、

被控訴代理人において、(一)本件土地が放牧採草地であるとの事実及びこの事実を裏付ける事実竝びに本件土地に関する売買契約が詐欺強迫によるものであるとの事実はいずれも否認すると述べ、(二)附帶控訴の理由として、(1) 本件は三十八名の共有権登記を求めるところの必要的共同訴訟で訴訟の目的が原判決別紙第一原告目録記載の被控訴人三十七名及び附帶控訴の趣旨記載の田中万九郎合計三十八名の全員につき合一にのみ確定すべき場合であるから、原審に対して原告田中万九郎の出した訴訟取下書は訴訟法上の効力を生じないで依然として三十八名全員のために訴訟が繋属しているものである。したがつて原判決は田中万九郎も原告の一員として扱うべきであつたのに同人のなした訴訟取下が効力を生じたものと解して判決をしたのは違法である。それで必要的共同訴訟人三十八名全員を当事者としてその全員のために登記をなすべき旨の判決を求めるのである。(2) 本件は必要的共同訴訟であるから第一審被告の控訴の提起は原判決別紙第一原告目録記載の原告三十七名に右附帶控訴人田中万九郎を加えた合計三十八名全員のために控訴の効力を生じているから、附帶控訴の趣旨記載の如き判決を求めるため附帶控訴をなした次第である。と述べたほかは、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

職権をもつて判断するに、およそ固有の必要的共同訴訟にあつては共同訴訟人全員が共同してはじめて当事者適格を有し、その請求は共同訴訟人の数に関係なくつねに一個であつてこれに対する判断は一個の全部判決をもつて終るべきものであるから、訴の取下をなすにはつねに共同訴訟人全員から又は全員に対してこれをなすべきであり、その一部の者から又は一部の者に対してなす訴の取下は、たとえ相手方の同意をえても、できないものと解すべきである。したがつて共同訴訟人の一部の者から又は一部の者に対し訴の取下がなされた場合、第一審裁判所はこの訴の取下を無効として全訴訟につき一個の全部判決をなすべきであるが、もし誤つてこのような訴の取下を有効と解し残余の共同訴訟人の又は共同訴訟人に対する請求のみについて終局判決をなしたときは、上訴をもつてこれを争うのほかはないのである。この場合、この終局判決に対して上訴をなしうる者は、この判決において当事者として取扱われた者、すなわち残余の共同訴訟人及び相手方だけであつて、訴の取下をなした者は訴訟の当事者から除外されているから、単独ででも又は残余の共同訴訟人と共同してでも、上訴をなすこと、したがつてまた附帶上訴をなすことはできないものと解すべきである。而して上訴審においては、第一審裁判所が訴の取下をなした者の又は訴の取下をなした者に対する訴訟を消滅したものとしてこれに対し本案判決をしなかつた違法があるから、訴を不適法として却下した第一審判決を取消す場合と同様、控訴審においては、第一審判決を取消して事件を第一審裁判所に差戻すことを要し、上告審においては、原判決を取消すほか第一審判決をも取消して事件を第一審裁判所に差戻さなければならないのである。

これを本件についてみるに、本訴は被控訴人等三十七名と田中万九郎の三十八名が原判決第一不動産目録記載の土地の共有権者として控訴人に対し右土地につき所有権移転登記手続を求めるものであるから、固有の必要的共同訴訟にほかならない。ところが記録によると、はじめ右の三十八名全員が原告となつて本訴を提起したが、原審において田中万九郎だけが単独で控訴人の同意をえて訴の取下をなしたので、原審はこの訴の取下を有効と解し田中万九郎を除いた被控訴人等三十七名の請求のみについて審理を進め終局判決をなしたことが明かである。そうとすれば原判決は田中万九郎の請求につき本案判決をしなかつた違法があるから民事訴訟法第三百八十七条に則り原判決を取消し、同法第三百八十八条の趣旨にしたがい事件を旭川地方裁判所に差戻すべきものである。

又被控訴人等三十七名と田中万九郎の三十八名全員のなした附帶控訴は不適法であつてその欠缺が補正できないものであるから同法第三百八十三条を適用して本件附帶控訴を却下すべきである。よつて爾余の点についての判断を省略し主文のとおり判決する。

(裁判官 浅野英明 藤田和夫 臼居直道)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!